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■ ウッディエンス メールマガジン 2012/03/27 No. 023
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■ 木材の科学は日進月歩! 日本木材学会から最新の情報をお届けします ■
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発行 日本木材学会広報委員会 ■
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日本木材学会広報委員会委員長 林知行
http://koho.cocolog-nifty.com/blog/
■本号の目次■
・本号では、2011年度日本木材学会賞,同奨励賞,同地域学術振興賞、同技術賞,
同論文賞を受賞された方々の受賞の声、放射性セシウムによる森林や木材への影響
に関する報告、「木のまち・木のいえづくり」を目指す若者のための教育プログラ
ムの報告を掲載します。
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◆第52回日本木材学会賞
『樹木二次代謝成分の生合成および生分解機構に関する研究』
河合 真吾(静岡大学農学部)
◆第52回日本木材学会賞
『木材の熱分解反応機構の解明』
河本 晴雄(京都大学大学院エネルギー科学研究科)
◆第23回日本木材学会奨励賞
『木材腐朽菌を用いた残留性有機汚染物質の代謝分解に関する研究』
亀井 一郎(宮崎大学農学部)
◆第23回日本木材学会奨励賞
『劣化外力を指標とする木質パネルの耐久性能評価に関する研究』
小島 陽一(静岡大学農学部)
◆第20回日本木材学会地域学術振興賞
『南九州産スギ材を建築土木用途に利活用する実用技術の開発』
飯村 豊(宮崎県木材利用技術センター)
◆第20回日本木材学会地域学術振興賞
『北海道における森林バイオマスの化学的用途開発に関する研究および地域産業
への貢献』
関 一人(北海道立総合研究機構林産試験場)
◆第13回 日本木材学会技術賞
『樹木精油を利用した環境汚染物質除去剤の開発』
大平 辰朗(森林総合研究所 樹木抽出成分研究室)
松井 直之(森林総合研究所 樹木抽出成分研究室)
金子 俊彦(日本かおり研究所株式会社)
◆第5回日本木材学会論文賞
『関東育種基本区におけるスギ精英樹クローンの立木材質の評価』
三嶋 賢太郎(森林総合研究所 林木育種センター)
井城 泰一(森林総合研究所 林木育種センター)
平岡 裕一郎(森林総合研究所 林木育種センター)
宮本 尚子(森林総合研究所 林木育種センター)
渡辺 敦史(森林総合研究所 林木育種センター)
◆第5回日本木材学会論文賞
『Evaluation of the weathering intensity of wood-based panels under
outdoor exposure』
小島 陽一(静岡大学農学部)
下田 智也(静岡大学農学部)
鈴木 滋彦(静岡大学農学部)
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◆放射性セシウムによる森林や木材への影響について
外崎 真理雄(森林総合研究所)
金子 真司(森林総合研究所)
清野 嘉之(森林総合研究所)
◆「木のまち・木のいえづくり」を目指す若者のための教育プログラムの構築
平成23年度事業実施報告
土屋 潤(秋田県立大学木材高度加工研究所)
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◆第52回日本木材学会賞
『樹木二次代謝成分の生合成および生分解機構に関する研究』
河合 真吾(静岡大学農学部)
このたびは、50年を超える歴史と伝統のある日本木材学会賞をいただき大変あり
がとうございました。学会賞選考に関わった方々に心より感謝いたします。また、香
川大学(学部生)、京都大学(修士・博士)、帯広畜産大学(助手)、岐阜大学(講
師・助教授)、アメリカ農務省林産物研究所(研究員)、静岡大学(助教授・准教授
・教授)と、6つの教育・研究機関において、いろいろな立場で所属できたことは、
教育・研究に対してかけがえのない経験になっております。お世話になった諸先生方
とのすばらしい出合いと、ご指導・ご助言に深く感謝の意を表します。また、本成果
は、一緒に研究を進めてきた沢山の学生の皆様のおかげと心より感謝しております。
大学時代よりリグニンモデル化合物の微生物分解機構を研究テーマとしておりまし
たが、当時より高分子リグニンと低分子モデル化合物のギャップについては常に議論
されておりました。そこで、留学を機に、リグニンモデル化合物をポリエチレングリ
コールなどの合成高分子に化学的に結合させた新規高分子リグニンモデル化合物類の
合成に着手しました。最終的に、このモデルを用いれば高分子状態でも詳細な反応解
析ができることを証明しました。一方、ラッカーゼ-メディエータシステムが、パル
プ漂白などに有効であることが知られておりましたが、そのリグニン分解機構につい
ては不明な点が多くありました。そこで帰国後は、メディエーターとして1-ヒドロキ
シベンゾトリアゾールを用いてリグニンモデル化合物の分解を行いました。酸素18で
標識した水および酸素の取り込み実験などから、詳細な分解機構を提案するとともに、
炭素14で標識したDHPの低分子化も証明いたしました。
生合成の研究については岐阜大学在任中より開始いたしました。針葉樹リグニンは
グアヤシル骨格が主要な構造であることはよく知られておりますが、クロベ属などの
針葉樹にはシリンギル骨格を有するリグナンが存在します。我々は庭園樹であるニオ
イヒバを対象としてそのシリンギル骨格の生合成機構について検討いたしました。そ
の結果、新規リグナンである4-O-デメチルヤテインを含めた3種のシリンギル型リグ
ナンと5種のグアヤシル型リグナンが存在することを明らかにし、前駆体の投与結果
と合わせてグアヤシルリグナンの水酸化とメチル化によってシリンギル骨格が形成さ
れる経路を提案しました。静岡大学に赴任後は、ヤマモモの産生する環状ジアリール
ヘプタノイド,ミリカノールの生合成機構を検討しております。炭素13で異なる位置
を標識した桂皮酸およびジヒドロ桂皮酸誘導体をヤマモモへ投与し、炭素13-NMRスペ
クトルで生成したミリカノールの解析を行いました。その結果、縮合に先立って二重
結合の還元が起こること、異なる芳香核を有する前駆体が縮合に用いられることなど
を明らかにしております。
樹木二次代謝成分の生合成機構ならびに微生物による分解機構を理解することは,
木質バイオマスを有効に利用するために必須であり、その生化学反応をうまく活用す
ることで,医学・健康科学に有用な成分の効率的な生産や,木質バイオマスの生物材
料やエネルギーなどへの変換が可能となります。しかしながら,樹木成分はその構成
が複雑で、これら代謝物の生化学的反応を直接解析することが困難な場合が多いこと
から、生物有機化学的な手法によって反応機構を解析してまいりました。今後は分子
生物学的なアプローチも交えて、樹木やそれを取り巻く生物の様々な生化学反応を酵
素・遺伝子レベルで明らかにできればと考えております。今後ともご指導,ご鞭撻を
賜りますようよろしくお願い申し上げます。
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◆第52回日本木材学会賞
『木材の熱分解反応機構の解明』
河本 晴雄(京都大学大学院エネルギー科学研究科)
この度は栄えある日本木材学会賞を賜り、誠に有難うございました。選考委員をは
じめ関係の諸先生方に厚く御礼申し上げます。
木材を酸素の無い(少ない)条件で加熱すると分解が起こり、炭、タール、木酢液、
ガスの複雑な生成物を与えます。この現象は、木材の炭化、急速熱分解、ガス化など
の熱化学変換技術の基本原理であり、これらを分子レベルで理解することは、熱分解
反応制御、さらには効率的な熱化学変換技術の確立において重要な示唆を与えると考
えられます。
石油などの化石資源の枯渇、地球温暖化などの環境問題、さらには原子力発電への
依存が困難になる中、世界の年間一次エネルギー需要の5〜10倍もの量が毎年生産さ
れているバイオマス(その大部分は樹木(木材))を、液体及び気体バイオ燃料ある
いはバイオケミカルス、バイオ材料へと効率的にリファイナリーする技術開発は極め
て重要であると考えられます。木材の熱分解生成物は、炭、液体燃料あるいはケミカ
ルスとして利用可能であり、また、木材をガス化することで気体燃料のみならず、
触媒を用いた合成を経ることで、例えば石油そのものが合成可能になります。しかし
ながら、生成物の低選択性の問題があり、もう一歩のところで実用化に至っていない
のが現状です。
私は学生、助手時代にタンニンの合成研究に従事しており、エネルギー科学研究科
に赴任してから、有機合成のように木材の熱分解反応を制御できないかと考えてまい
りました。有機合成では、目的物質を与える反応とともに副反応が競合することが常
であり、”合成研究=反応制御”と私は理解しております。反応を制御するためには、
分子レベルでの反応機構の知見が重要になりますが、研究を開始した時点で、木材の
熱分解反応についての知見は驚くほど少なく、熱化学変換技術の研究において、その
基本原理である木材の熱分解反応が”ブラックボックス”として取り扱われているこ
とに気づきました。このような背景から、例えば合成研究では一週間で解決できる問
題を、数年あるいは十年単位で取り組む覚悟で、木材の熱分解反応機構の解明研究を
開始いたしました。
木材の熱分解は通常複雑な生成物を与えますが、セルロースからの熱分解中間体あ
るいはリグニン2量体モデル化合物を用いた検討などにより、初期反応は至ってシン
プルであり、特定の生成物を収率よく与えることが判明しました。また、生成物の解
析及び反応性に及ぼす置換基効果などの結果より、石油、石炭の熱分解とは異なり、
ヘテロリシス(イオン開裂反応)がホモリシス(ラジカル開裂反応)とともに重要な
役割を果たしていることが解ってまいりました。さらに興味深いことに、気相、芳香
族化合物あるいはポリエーテル中で、糖が著しく熱安定化されることが見出され、こ
れより、水素結合が酸性、塩基性触媒として働くことでヘテロリシスが比較的低温か
ら進行するようになる機構が提案されました。今後は、分子レベルでの機構解明研究
を進めるとともに、熱分解反応制御によるバイオリファイナリー技術の創生を目指し、
さらなる精進をしていく所存でございます。
最後になりましたが、研究室でこのような研究を進めさせていただきました京都大
学エネルギー科学研究科教授の坂 志朗先生、有機反応機構をベースとした研究手法
をご教示いただきました京都大学名誉教授の中坪文明先生をはじめ、お世話になりま
した多くの方々に厚く御礼申し上げます。今後ともご指導、ご鞭撻のほどよろしくお
願い申し上げます。
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◆第23回日本木材学会奨励賞
『木材腐朽菌を用いた残留性有機汚染物質の代謝分解に関する研究』
亀井 一郎(宮崎大学農学部)
このたび、日本木材学会奨励賞にご選出いただき、大変光栄に存じます。学会関係
者の皆様はじめ、これまでご指導いただきました先生方、共に切磋琢磨してまいりま
した先輩、同輩、後輩の方々に厚く御礼を申し上げます。
受賞させていただきました研究内容は、微生物による環境浄化、すなわちバイオレ
メディエーションに関する研究です。九州大学で本研究を開始した時点では、木材腐
朽菌がダイオキシンやPCBを含む多くの環境汚染物質分解能に優れていることが報告
されておりましたが、その分解メカニズムが不明なままでした。私は、近畿大学で細
胞性粘菌の形態形成に関わる遺伝子の単離と機能解析をテーマとして、新規遺伝子の
クローニングや遺伝子ノックアウトによる表現型解析を行っておりました。そこで、
本研究の開始当初は、得意な分野からアプローチしようと考え、ダイオキシン分解酵
素遺伝子の解明を目指した分解能欠損変異株の作出や培養条件の設定に躍起になって
おりました。しかしながら、ダイオキシンの分解経路に関する圧倒的な情報不足(そ
もそも本当に分解できるのかさえ疑う時期がありました)から、分子生物学的なアプ
ローチが頓挫したため、分析化学をベースとした分解代謝物の検出同定と分解経路の
解明にシフトし、自分が納得できるまで検討しようと考えました。
まず、二塩素化ダイオキシン異性体を分解可能とされる白色腐朽菌Phlebia
lindtneriを用いて、より塩素置換数の多いダイオキシン異性体の分解能を調べたと
ころ、三から四塩素置換されたダイオキシン異性体の一部を分解可能であり、その
分解経路に初発の水酸化とその後のメトキシル化が含まれていることを明らかにしま
した。また、ダイオキシン分解能に優れる白色腐朽菌がいずれもPhlebia属に属する
ことを突き止め、遺伝的類縁関係に基づく選抜アプローチを実践したところ、強力な
分解菌としてPhlebia brevisporaの選抜に至り、細菌類では分解が困難な四塩素化ダ
イオキシン異性体を分解可能であると証明しました。さらに、木材腐朽菌によるPCB
の詳細な分解経路について調べたところ、初発の水酸化反応から環開裂を経る代謝経
路を明らかにすることができ、毒性の高いPCB異性体の分解が可能であることを代謝
物レベルで証明しました。結果的には、不明であった木材腐朽菌によるダイオキシン
類の分解経路の一端を明らかにすることが出来たと考えております。学位取得後に学
振研究員としてお世話になりました農業環境技術研究所でも、細菌によるヘキサクロ
ロベンゼン分解経路の解明に取り組む傍ら、残留性有機汚染物質であるディルドリン
やエンドスルファンの木材腐朽菌による分解にも取り組み、一定の知見を得ることが
できました。これまでの結果を整理しますと、研究開始当初に考えておりました、分
解メカニズムの完全解明に向けた分子生物学的アプローチを可能にする素地が、やっ
と出来てきたように思います。
木材腐朽菌は、分解者としての特異な機能と、種が多様であることが研究素材とし
て難しい反面、魅力的だと感じています。今後も腐朽菌機能の開発と解明に向けた研
究に邁進する所存でございますので、ご指導のほど、なにとぞよろしくお願い申し上
げます。
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◆第23回日本木材学会奨励賞
『劣化外力を指標とする木質パネルの耐久性能評価に関する研究』
小島 陽一(静岡大学農学部)
この度は、日本木材学会奨励賞という名誉ある賞に私の研究をご選出いただき、誠
にありがとうございます。以下に受賞対象となりました研究の概要をご説明させてい
ただきます。
木質パネルは様々な外力によって劣化していくものと考えられています。本研究で
は、これら外力を劣化外力と定義しました。劣化外力には、熱、水分、紫外線、風な
ど様々な種類があり、これらが複雑に相互作用しながら木質パネルの劣化を引き起こ
します。木質パネルの耐久性を評価する手法には、屋外暴露試験や各種促進劣化処理
試験が提案されております。これらの劣化外力に対して木質パネルがどれだけ耐えう
るのかを検討することを目的として研究を行ってきました。屋外暴露試験は地域差が
生じる等、科学的な手法としては多くの弱点を持つ試験方法でありますが、自然環境
を基にした促進劣化処理の1つとして位置づけられており、各種促進劣化処理の強弱や
妥当性を判断する物差しとして用いられています。本研究で検討を行った物性値は、
厚さ膨張率、内部結合力、曲げ性能の3種類であり、各種促進劣化処理試験と屋外暴
露試験の結果を合わせて検討を行いました。3つの物性値全てにおいて、各促進劣化処
理における劣化外力の強弱を把握することができました。また、パネルの種類によっ
て劣化の程度に大きな差が生じることを明らかにしました。さらに、屋外暴露試験と
促進劣化処理による劣化を比較することで、両者の相関を明らかにすることができま
した。
先にも述べましたが、屋外暴露試験は地域差が生じるという大きな弱点を持ってい
る試験方法であります。そのために、ある地域で得られたデータは、その地域限定の
データになってしまいます。本研究では、この地域差を補正するために、劣化外力
(ここでは、気温と降水量)の数値化を試みました。具体的な手法は、気温と降水量
の積を暴露期間で積算したものを劣化外力とし、その値と各種基礎物性値の劣化との
相関を検討しました。その結果、気温と降水量によって算出した劣化外力は各物性値
の劣化と高い相関性を示しました。既往の研究で、屋外暴露試験での劣化は気象因子
によるという定性的に結論付けられてきた現象を本研究では定量化することが可能と
なりました。この結果を使用することによって、屋外暴露試験地以外においても、そ
の地域の気象条件さえ分かれば、その地域で使用した場合の劣化状況を推定すること
が可能になります。余談ではございますが、この地域差を補正するための手法に関し
て報告した論文が、本年度の論文賞(JWS)に選出されましたので、そちらの紹介記
事も読んでいただければ幸いです。
本研究は、日本木材学会木質パネル研究会が2004年より実施しております「木質パ
ネル第2次耐久性プロジェクト」の一環として行ってきたものであります。特に全国
8地域での屋外暴露試験データは、各地域の方々の努力の結晶であります。これまで
にプロジェクトに参画していただいた方々、研究を進めるにあたってご指導、ご支援
いただきました皆様に、この場を借りて心より御礼申し上げます。今後とも木質材料
分野を中心に様々な視点から木材の研究を進めていきますので、ご指導、ご鞭撻を賜
りますよう宜しくお願いいたします。
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◆第20回日本木材学会地域学術振興賞
『南九州産スギ材を建築土木用途に利活用する実用技術の開発』
飯村 豊(宮崎県木材利用技術センター)
この度は、地域学術振興賞という名誉ある賞を頂き大変光栄に存じます。支えて下
さった宮崎県木材利用技術センター(以下センター)の大熊初代所長、有馬前所長、
センターの仲間、宮崎県、地域の企業、設計事務所、そして、日本木材学会(以下学
会)の皆様に感謝申し上げます。
2001年にセンターが開設されて私が研究職に就いた当時の宮崎県は、スギ丸太から
とにかく強い材料を採ることに熱心でしたが、一方では林業関係者の間から残った材
料をどうするのかという懸念の声も上がっていました。そこで私は、軽く軟らかい宮
崎スギをティンバーエンジニアリングによって使いこなし、建築・土木の用途に多く
の実績を残すことが大事だと考えました。この実績づくりを目標に据え、「軽く、軟
らかく、潰れやすく、ヤング係数・強度が大きくない、だが粘り強い」スギの材質特
性を活かして建築土木用途に利活用する実用技術の研究開発に注力してきました。
実績づくりの第一歩は、スギによる木造化へ向けて顧客のニーズや夢を満たす提案
資料、つまり企画書と予算書、それに少ないながらも事例集を最終決裁者の立場に立
って作成することから始めました。例えば、公共工事の場合は、県や市町村の事業を
担当する関係者に直接会って提案資料を説明しました。的確な提案ができたのは、そ
れまでに学会を中心に南九州産地域材スギの物性や特性に関する基礎データが蓄積さ
れていたことによります。
次に、設計者の積極参加の場面を設けました。スギ木造の設計は、事例や建築土木
関係者の使えるデータが少なく作業量が増えて割に合わないことから、設計者の負担
を軽くするため、数値化されたスギの基礎データを設計者の使えるように変換し、関
係者と共有しながら設計者に協力することで設計者を説得しました。設計者が決まる
と、木部材の生産・加工者等を交えてスギ木造化の方向へ設計を進めました。
こうして木材関係者が揃ったところで、企画書に織り込んだ内容を具体化していき
ます。その際には、無理せず、それぞれの実力に合ったものを組み合わせるよう心が
けました。但し、挑戦するところ、新しく開発・実用化するところはリスクが多くな
りますから、実験しておいた方が良い場合には、センターで性能確認の試験を引き受
けました。実験が必要な場合は設計書の中で特記として試験内容を示しました。
入札で建設会社が決定すると、その会社が中心となって現場で新技術を実践するつ
くり込み作業に私も加わりました。それと併行して、新しいスギ利用から維持管理に
至るまでのシステムづくりにも積極的に関わり、現場から生きたデータを採りました。
狙ったものとつくり込んだものが予定通りの性能を発揮しているか検証するためです。
収集したデータは実証研究結果などとして学会や研究会等で公表してきました。
地域材利用の実績を積み重ねて技術を残していくことの楽しさは、何と言ってもス
ギ利用技術が関係者の間で蓄積され、地域のシステムとしてつくり上げられ、後世に
受け継がれていくことにあります。外材利用にはない魅力です。ただ、当初は利用者
から、コストが嵩む、スギの利用に関する情報が不足している、施工基準がない、と
いったクレームが寄せられ、実績づくりはそう簡単には運びませんでした。だからこ
そ、それらを解決するためにセンターが設けられたとも言えます。地道に一つひとつ
を解決し、前に進んできたことが今回評価していただけたことに大きな喜びを感じて
います。
平成22年には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、
宮崎県でも木造化事業が始まろうとしています。これまでに構築されたシステムと利
用技術の下で、スギの中小断面集成材や大径材からの製材などの建築・土木利用が確
実に進むものと期待しています。
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◆第20回日本木材学会地域学術振興賞
『北海道における森林バイオマスの化学的用途開発に関する研究および地域産業
への貢献』
関 一人(北海道立総合研究機構林産試験場)
北海道において、ササ類は木材蓄積の約30%にも相当する木材に次ぐ森林バイオマ
スです。ササ類の有効活用の一環として、蒸煮を用いてそのヘミセルロースであるキ
シランを加水分解し、機能性糖質であるキシロオリゴ糖として効率的に回収する技術
の開発を行ってきました。蒸煮や爆砕などは1970〜80年代に森林・農産バイオマスの
化学変換技術としてさかんに検討され、現在でも短伐期収穫ヤナギなどのリグノセル
ロースからのバイオエタノール製造実験の前処理として検討されています。一般に、
酵素を用いてコーンコブなどに含有するキシランから得られる市販のキシロオリゴ糖
は重合度5程度以下であり、整腸作用をはじめとする生理的機能が多数報告されてい
ます。一方、蒸煮を用いてササ類に含有する推定重合度200程度のキシランから得ら
れるキシロオリゴ糖は、重合度20程度までの存在が示唆されており、今後、高重合
度画分の新たな機能性や用途についても検討する余地があると考えています。植物と
してイメージの良いササ類から、薬品類などを一切使用せずに機能性オリゴ糖が比較
的簡易に製造可能ということもあり、北海道内のいくつかの企業において利用され、
これまでに健康食品(ドリンク剤、サプリメント)や菓子類(キャンディー、生チョ
コレート)などの新商品開発につながってきました。
カラマツ類は寒冷地域においても高い成長速度を示すことから、北海道においては
本州中部から導入されたニホンカラマツが主要造林木となっています。また、カラマ
ツ類は高い種間交雑能を示すことから、これまで多数の育種研究により、成長速度の
他にも、材質、諸被害抵抗性、炭素固定能などの点に優れたグイマツ雑種F1(♀グイ
マツ×♂ニホンカラマツ)が開発されており、年々その需要が高まっています。グイ
マツ雑種F1苗は、その種子が基本的に採種園において自然交配により得られるため、
苗生産において同時生産されてしまうグイマツ苗と形態などで目視判別する必要があ
り、それに関する熟練、労力、判別精度などが課題となっています。そこで、農林作
物における二次代謝物の遺伝特性に関する先行研究などから着想を得て、苗の樹脂成
分組成を判別指標とすることを目的として、まず、グイマツ雑種F1、グイマツ、ニホ
ンカラマツのテルペノイドを精査するとともに、それらの樹皮からオレオレジンの主
成分である主要ジテルペノイドを単離同定しました。DNAマーカーによってあらかじ
め判別しておいたグイマツ雑種F1とグイマツの2年生苗を約200個体用いて、その側枝
樹皮中の主要ジテルペノイドの量的組成を化学分析したのちに統計的多変量解析を行
ったところ、グイマツ雑種F1とグイマツを従来の苗形態による目視判別よりもかなり
高精度で判別可能であることを確認しています。今後、分光光学的な迅速非破壊判別
装置の開発など、残された課題はありますが、このような応用研究への道筋を付けた
ものと考えています。
最後になりますが、以上のような課題を進めるにあたり、多数の共同研究者および
職場スタッフにはこれまでに多大なる支援をいただきました。この場をお借りして心
から感謝申し上げます。今後も地域に密着した森林バイオマスの化学的利用の発展に
微力ながらも貢献できればと考えています。
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◆第13回 日本木材学会技術賞
『樹木精油を利用した環境汚染物質除去剤の開発』
大平 辰朗(森林総合研究所)
松井 直之(森林総合研究所)
金子 俊彦(日本かおり研究所株式会社)
この度は、たいへん名誉ある賞をいただき、開発者を代表して心より御礼申し上
げます。
受賞対象になった内容は、樹木精油から二酸化窒素等の環境汚染物質の除去剤の開
発に関するものです。我々が毎日吸っている空気は様々な化学物質により汚染されて
おり、いろいろな疾病の要因になるといわれ、社会問題になっています。そのため環
境汚染物質を効果的に除去する方法の開発が急務となっていました。一方で、林地に
は枝打ちや伐採により枝葉等の林地残材がほとんど利用されない状態で放置されてい
ます。これらが有効に利用できれば未利用資源の有効利用にもつながり、また森林整
備上大いに役立つと考えられます。樹木の枝葉には抗菌性や消臭性など多機能の精油
成分が含まれており、付加価値が高いと考えられます。そこで様々な樹木精油の中か
ら有害性の高い二酸化窒素等の環境汚染物質を効果的に除去できるものを探索したと
ころ、林地残材であるトドマツ、ヒノキ等の枝葉由来の精油において活性が高いこと
を見出すことができ、さらに除去活性の高い物質としてβ-フェランドレン、γ-テル
ピネン等のモノテルペン類を多数発見できました。未利用の資源から環境汚染物質の
除去に役立つものが得られるわけです。しかしながら植物中の精油の存在量は多くて
も数%にすぎません。実用化するにはいかに効率よく精油を抽出するかがポイントで
した。試行錯誤の結果、精油の効率的な抽出法として減圧式マイクロ波水蒸気蒸留法
を新たに開発しました。この方法は熱源にマイクロ波を利用する方式で、一般的な水
蒸気蒸留法に比べて蒸留時間が短時間ですみます。その結果、消費エネルギーを大幅
に低減できました。さらに減圧式であるため、目的物質を選択的に抽出することが可
能です。つまり抽出条件を検討することにより環境汚染物質の除去活性の高い物質を
選択的に抽出できるわけです。また植物以外には水などを加える必要がありません。
原料となる植物体に元から含まれている水を利用して抽出する原理なのです。そのた
め本法は、従来の水蒸気蒸留法のように大量の廃液が排出することがない、環境に配
慮した抽出法と位置付けられます。さらに精油といっしょに得られる抽出水はほのか
な香りがして嗜好性が高く、抗菌性や抗ウイルス活性、消臭活性なども合わせもって
おり、いろいろな用途に利用が可能です。一方で植物体中の水がマイクロ波で加熱さ
れ、蒸気として取り出されるわけですから抽出工程は即ち乾燥工程となります。結果
的には、抽出残渣は低含水率の状態で得られます。そのため抽出後、乾燥などの処理
をすることなく残渣を燃料素材や消臭素材等として直接利用できるのです。このよう
に今回開発した方法を用いることにより、貴重なバイオマス資源を無駄なくほぼ全て
利用することが可能となりますので、抽出の効率性は元より、経済性、環境負荷とい
った点でも優れたものと言えるのではないでしょうか。
現在、北海道でトドマツの林地残材を利用した精油抽出プラントを立ち上げ、精油
の大量抽出を行っています。2011年9月には開発した除去剤を基にした「クリアフォレ
スト」技術ブランドも立ち上がり、数社から関連商品の販売が開始されています。興
味のある方は、以下のホームページをご参照ください。
http://www.st-c.co.jp/topics/2011/000399.html
以上の成果は、様々な産業分野において活用が期待できます。今後本格的な事業化
が展開できれば、枝葉等の林地残材の有効利用を通した林業・林産業の活性化やそれ
らの活用による山村振興にも寄与できるのではと夢を膨らませております。
最後になりましたが、関係者の皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。あり
がとうございました。
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◆第5回日本木材学会論文賞
『関東育種基本区におけるスギ精英樹クローンの立木材質の評価』
三嶋 賢太郎(森林総合研究所 林木育種センター)
井城 泰一(森林総合研究所 林木育種センター)
平岡 裕一郎(森林総合研究所 林木育種センター)
宮本 尚子(森林総合研究所 林木育種センター)
渡辺 敦史(森林総合研究所 林木育種センター)
このたびは、大変栄誉ある賞を頂き、審査員の皆様をはじめ本論文に関わった方々
に心から御礼申し上げます。
本論文は材質形質という側面から関東育種基本区で選抜された精英樹の早期選抜の
可能性を検討するための調査をまとめたものです。
関東育種基本区から選抜された全ての精英樹が同一気候条件下で植栽されている大
久保育種素材保存園で14年生のスギ精英樹のつぎ木クローン、745クローン2,149個体
を対象に胸高直径、応力波伝播速度およびピロディン陥入量を測定しました。より正
確にこれら形質を評価するため、すべての調査した個体についてジェノタイピングを
行いました。
その結果、全ての測定形質において有意なクローン間差が認められました。また、
応力波伝播速度およびピロディン陥入量の平均値や変動係数は、これまで報告されて
いる値と同等でありました。胸高直径、応力波伝播速度およびピロディン陥入量の相
関関係は、総じて低い値を示し、成長形質と材質形質がともに優れたスギの創出が可
能であることが示唆されました。大久保育種素材保存園と3つの検定林との間に共通し
て植栽されている樹齢27年以上のクローンを対象に、相関関係を検討した結果、応力
波伝播速度およびピロディン陥入量ともに相関関係がみとめられたことから遺伝子型
と環境の交互作用が小さく、比較的早期に選抜することが可能であることが示唆され
ました。
林木育種センターでは、本論文で扱った材質形質に加え成長等のデータも加味しな
がら優良クローンの選抜を進めていきたいと考えております。
最後になりましたが、本賞の受賞は、調査区の設定から植栽その後の維持管理など
多くの諸先輩、同僚の方々の長年にわたる努力の賜物でありますことを感謝の意を込
めて記させて頂きます。
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◆第5回日本木材学会論文賞
『Evaluation of the weathering intensity of wood-based panels under
outdoor exposure』
小島 陽一(静岡大学農学部)
下田 智也(静岡大学農学部)
鈴木 滋彦(静岡大学農学部)
この度は、私たちの論文に対して論文賞をいただきまして誠にありがとうございま
す。著者を代表して心より御礼申し上げます。
本論文では、日本木材学会木質パネル研究会での「木質パネル第2次耐久性プロジ
ェクト」で実施しております木質パネルの耐久性評価に関する研究の報告であります。
これまでに木質パネルの屋外暴露試験による耐久性の報告は数多くされておりますが、
結論としては、屋外暴露試験はその地域特有のデータとなり、気象条件によって劣化
の程度が異なる、というように定性的な扱いをされてきました。このプロジェクトで
は、全国8地域で同時に屋外暴露試験を実施しており、結果を眺めてみますと、劣化
にはやはり地域差がはっきりと現れております。本論文の目的は、この地域差を排除
(補正)し、暴露試験地以外での劣化の推定を可能にすることです。そのために、気
象条件(本論文では気温と降水量の組合せ)から劣化外力の数値化を試みました。具
体的な手法は、まず8つの暴露地域の1日ごとの気温、降水量を気象庁のホームページ
より入手し、その積を暴露期間で積算したものを劣化外力としました。この劣化外力
と各種基礎物性値の劣化との相関を検討したところ、高い相関性を示すことが分かり
ました。この結果を使用することによって、屋外暴露試験地以外においても、その地
域の気象条件さえ分かれば、その地域で使用した場合の劣化状況を推定することが可
能になります。
本研究は、日本木材学会木質パネル研究会が2004年より実施しております「木質パ
ネル第2次耐久性プロジェクト」の一環として行ってきたものであります。これまで
にプロジェクトに参画していただいた方々、特に毎年、屋外暴露試験のデータを採取
してくださった方々には厚く御礼を申し上げます。また、研究を進めるにあたってご
指導、ご支援いただきました皆様に、この場を借りて心より御礼申し上げます。また、
論文の査読をしてくださった審査員の皆様にも深く感謝いたします。
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◆放射性セシウムによる森林や木材への影響について
外崎 真理雄(森林総合研究所)
金子 真司(森林総合研究所)
清野 嘉之(森林総合研究所)
1.はじめに
2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震とそれに伴う津波により、東京電力
福島第一原子力発電所の1-4号機は大きな被害を受けた。
その後、1-3号機の炉心溶融や保管された燃料棒の曝露が生じ、圧力低減のための
ベントや水素爆発により、大量の放射性物質が3月の中旬と下旬に大気中に排出され、
福島県を含む東日本の広い範囲が汚染された。
当然のことながら汚染地域の大部分は森林域であり、特に福島県の林業・木材産業
への影響が懸念された。森林総合研究所と林野庁は3月下旬から風評対応やQ&Aの作成
などを進めていたが、5月から森林総合研究所の運営費交付金により緊急調査プロジ
ェクトを立ち上げ、森林内の放射性物質の分布を調べることとした。
本稿ではこれまでに明らかになった結果を木材への影響に重点を置いて解説する。
◇この続きは下記のリンクからご覧ください。
http://www.jwrs.org/woodience/mm023/tonosaki.pdf
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◆「木のまち・木のいえづくり」を目指す若者のための教育プログラムの構築
平成23年度事業実施報告
土屋 潤(秋田県立大学木材高度加工研究所)
1.はじめに
平成22年度から、木材学会は、林野庁の補助事業である『木のまち・木のいえ担い
手育成拠点プロジェクト』に『「木のまち・木のいえづくり」を目指す若者のための
教育プログラムの構築』という提案で採択され、森林・木材・建築とそれらを担う人
材育成に関する取り組みを行ってきました。
取り組みの柱は、木造建築の教育プログラム構築と地域で行う学生を対象としたセ
ミナーで、22年度の試行セミナーは東北、九州地域で開催、今年度には北陸と東海が
加わり4地域となりました。
これから、各地域での「木のまち・木のいえづくり」を推進するには、各地域の気
候風土、文化および材料事情を認識するとともに、森林・木材・建築のそれぞれの領
域全体に対する基本的な知識と情報を持ち、昨今の社会に氾濫するさまざまな木材関
連情報を仕分ける判断力を持った人材の育成が重要というコンセプトのもと、工学系
・農学系それぞれに属する大学生・大学院生が「木造ファン」となり、そして将来各
地域でリーダーとなることを目指しスタートした担い手セミナーについて報告させて
頂きます。
◇この続きは下記のリンクからご覧ください。
http://www.jwrs.org/woodience/mm023/tuchiya.pdf
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■日本木材学会の刊行する学術雑誌はインターネットで読むことが出来ます。最新の
学術情報をぜひご覧ください。
◎和文誌:木材学会誌 電子ジャーナル版
http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jwrs/-char/ja/
◎欧文誌: Journal of Wood Science 電子ジャーナル版
http://www.springerlink.com/content/1611-4663/
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