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■ ウッディエンス メールマガジン 2011/06/30 No. 020
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■ 木材の科学は日進月歩! 日本木材学会から最新の情報をお届けします ■
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発行 日本木材学会広報委員会 ■
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日本木材学会広報委員会委員長 林知行
http://koho.cocolog-nifty.com/blog/
■■ 広報委員会からのお知らせ ■■
3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震のために、学会大会時に予定されていた
学会賞の授賞式が6月25日の総会時に延期されました。
例年なら3月に発刊されるウッディエンスに受賞者の声を掲載するのが通例となっ
ておりましたが、本号に掲載を延期せざるを得ませんでした。
■本号の目次■
以上のような事情により、本号では、2010年度日本木材学会賞,同奨励賞,同地
域学術振興賞、同論文賞を受賞された方々の受賞の声を掲載いたします。本号に未
掲載の方については次号に掲載する予定です。
また、秋田県立大学編集の「コンサイス木材百科(改訂2版)の書評を掲載しま
す。
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◆第51回日本木材学会賞
『リグニンおよびセルロースモデル化合物の合成と脱リグニンに伴う反応の解明』
岸本 崇生(富山県立大学工学部)
◆第51回日本木材学会賞
『力学的手法を用いた立木の材質評価と耐風性評価に関する研究』
小泉 章夫(北海道大学大学院農学研究院)
◆第22回日本木材学会奨励賞
『水溶性を持つリグニンの構造・調製および利用に関する研究』
相見 光(秋田県立大学木材高度加工研究所)
◆第22回日本木材学会奨励賞
『木造建築物の地震等による倒壊過程シミュレーション手法の開発』
中川 貴文(建築研究所)
◆第20回日本木材学会地域学術振興賞
『薬用・食用菌類研究による九州地域の学術発展と研究成果の普及』
目黒 貞利(宮崎大学農学部)
◆第20回日本木材学会地域学術振興賞
『木材乾燥の研究による学術振興と木材関連産業活性化への多大なる貢献』
吉田 孝久(長野県林業総合センター)
◆第4回 日本木材学会論文賞
『木材腐朽が釘接合部のせん断性能に及ぼす影響』,木材学会誌,56巻1号
戸田 正彦(北海道立総合研究機構 林産試験場)
森 満範 (北海道立総合研究機構 林産試験場)
大橋 義コ(北海道立総合研究機構 林産試験場)
平井 卓郎(北海道大学大学院農学研究院)
◆第4回 日本木材学会論文賞
『Quantitative estimation of carbon removal effects due to wood utiliza-
tion up to 2050 in Japan : effects from carbon storage and substitution
of fossil fuels by harvested wood products』JWS, Vol. 56, No. 4
恒次 祐子(森林総合研究所)
外崎真理雄(森林総合研究所)
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◆第51回日本木材学会賞
『リグニンおよびセルロースモデル化合物の合成と脱リグニンに伴う反応の解明』
岸本 崇生(富山県立大学工学部)
この度の東北地方太平洋沖地震により被害を受けられた皆様に対しまして、心より
お見舞い申し上げます。
地球温暖化や石油資源の枯渇に対処するため、木質バイオマスの総合利用やバイオ
マスリファイナリー(バイオリファイナリー・ウッドリファイナリー)への関心が高
まっています。バイオマスリファイナリーでは、成分の分離・精製や脱リグニン、成
分変換等が必要であり、セルロースやリグニンの分解や構造変化を伴います。受賞の
対象となった研究では、このような分解反応や構造変化を理解するために、リグニン
およびセルロースモデル化合物を合成し、それらを用いて脱リグニンに伴うリグニン
およびセルロースの反応を解明しました。研究内容は大きく分けると以下の3つにな
ります。
1.オゾン漂白中のセルロースの反応の解明
オゾン漂白は有機塩素化合物が全く発生しないことから、環境にやさしいパルプ漂
白法として国内の複数のパルプ工場で採用されています。しかしこの研究に取り組み
始めた当時は、まだ実用化される前の段階で、パルプの粘度低下の防止が課題となっ
ていました。そこで、パルプ粘度低下の原因を解明するため、セルロースのモデル化
合物やその酸化生成物を合成し、それらを用いてパルプ粘度の低下を惹き起こすセル
ロースの分解反応を精査し、博士論文としてまとめました。
2.脱リグニンに伴うリグニンの反応の解明
助手として採用された北大の佐野教授の研究室では、常圧酢酸パルプ化等のオル
ガノソルブパルプ化を基盤とした木質バイオマスの総合利用(バイオマスリファイナ
リー)に取り組んでいました。その一環として行われていた、高沸点溶媒(High
Boiling-Solvent: HBS)パルプ化における脱リグニン反応の解明を行いました。モデ
ル化合物やパルプ廃液から単離したリグニンを用いて、リグニンの構造変化や分解反
応の解明を行いました。HMQCスペクトルなど2次元NMR等も活用しながら研究を進め
ました。
3.b-O-4型人工リグニンポリマーの合成とその応用
従来からよく用いられている2量体リグニンモデル化合物は、定性・定量分析が容
易であることから非常によく利用されています。しかし、2量体モデル化合物には高
分子としての性質がないため、高分子的性質も併せ持つ新たなリグニンモデル化合物
が必要であると考え、b-O-4型人工リグニンポリマーの合成を行いました。その成果
は、Royal Society of Chemistryが発行するOrganic & Biomoelecular Chemistry誌
の中表紙に採用されています。現在は、これらの人工リグニンポリマーの応用等に取
り組んでいます。
以上のように、これまで有機化学を研究の基礎とした木質バイオマス研究を行って
きました。このような成果を上げることができたのは、一つには、学生時代に京都大
学の中坪教授の下で、研究室の先輩、同輩、後輩たちと切磋琢磨しながら夜遅くまで
実験に取り組んだ経験があったからだと思います。その時に学んだ有機化学や有機合
成化学の知識や技術、研究に対する姿勢などが、その後の研究にも生かされています。
それから、実際の研究の少なくない部分は、一緒に研究を進めてくれた学生の皆さん
によるものであり、この場で改めて感謝いたします。これからも、有機化学を基礎に
した木質バイオマス研究に取り組み、これまで以上の成果を上げていきたいと考えて
います。皆様の御指導、御鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
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◆第51回日本木材学会賞
『力学的手法を用いた立木の材質評価と耐風性評価に関する研究』
小泉 章夫(北海道大学大学院農学研究院)
この研究をはじめるきっかけとなったのは1981年の15号台風でした。北海道ではカ
ラマツ若齢林を中心に大きな被害がありました。このとき,僕は大学院修士課程の学
生でしたが,研究室のボスであった澤田稔先生が俄然,樹木構造の力学解析に着手さ
れ,次々と計算資料を発表され,そして「樹木力学」を唱えられました。傍らでそれ
を伺って,「木材の強さは家を建てるためではなく,樹木が風や積雪と戦うために獲
得したのだ」とストンと腑に落ちたことを思い出します。先生に刺激されて樹木の引
き倒し試験をはじめたのですが,結果を解析する過程で,根系の回転角を求めるため
に樹幹の曲げ剛性が必要になったので,立木の曲げヤング率を測る道具をつくりまし
た。この方法は体重によるモーメント荷重を用いるので,載荷装置を軽量化でき,樹
木の根系に負担をかけない利点があります。このプリミティブな方法で,樹幹ヤング
率を求めたところ,思いのほか精度よく測れたので,風害防除を目的に始めた研究が
いつのまにか造林木の材質評価の研究になっていきました。
実験を重ねるうちに,造林樹種のヤング率の遺伝変異が大きいことや肥大成長と独
立した形質であることを確かめることができました。一方,ヤング率の環境変異につ
いては,環境を選択することで成長がよく優れた材質をもつ林木を育成できる可能性
を示すことができました。このように材質育種の先駆的な研究ができたのはとても幸
運なことでした。また,家系や林分といった区分内・区分間のばらつきを検討した結
果,実生造林地の原木の等級区分の単位として,林分が適当であることを明らかにで
きました。
次の転機となったのは,北大に勤務してしばらくたった2004年の18号台風です。札
幌では最大瞬間風速50m/秒超を記録して,数多くの街路樹や公園樹が倒れました。こ
のことをきっかけに緑化木の耐風性を考えるようになりました。緑化木を扱う場合に
は,データの少ない広葉樹樹冠の抗力係数の評価方法を考える必要がありますし,ま
た老木の樹幹はいびつな断面や腐朽部を持っているので,そういった梁の曲げ強さの
評価方法を考える必要もあります。この後段の研究は根系の抵抗機構のモデル化など
未解決の課題があります。まだ各部分の評価方法を提案している段階で,研究の目的
である風害防除の出口は見えていません。
北海道では,台風による大災害の周期は50年程度とも言われていますが,地球環境
の変化でもっと早く次の襲来があるかもしれません。リスク管理がそれに間に合うよ
う,みなさまのご指導を仰ぎながら研究をつないでいきたいと考えています。
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◆第22回日本木材学会奨励賞
『水溶性を持つリグニンの構造・調製および利用に関する研究』
相見 光(秋田県立大学木材高度加工研究所)
リグニンは通常疎水的だと考えられがちですが, リグニンがどのような条件下にお
いて水可溶化するか, および得られた水溶性リグニンの諸性状を明らかにすることは,
リグニンの基礎研究の発展に寄与するだけでなく, リグニン利用の可能性も大いに
広げると考えられます。
私は大学院時代には「MWL抽出残渣から得た水溶性多糖類に含まれる小断片リグニン
の構造」というテーマで研究を行っており, 本研究は多糖に極めて近い位置に存在す
るリグニンの化学構造解析が目的でした。本研究で扱っていた試料は水溶性であり,
多糖に化学結合などを介して結合したリグニン小断片を含んでいたため, この研究を
通して, ある条件下ではリグニンが水可溶の状態で扱えるのではという着想を得るに
至り, その後の研究の糸口を得ました。
そして現在, 私が取り組んでいる研究テーマは「オゾン酸化を用いたリグニン系酸
性土壌改良剤の開発」です。世界の農業利用可能陸地面積の約4割を占める酸性土壌
では, 植物の生育阻害が起こることが大きな問題となっています。アルミニウム(Al)
イオンが土壌の酸性化に伴い土壌水中に溶出し, その害が植物の生育阻害の最も大き
な要因となっていると考えられています。リグニンは土壌改良剤の原料として高い有
用性を有すると予想されますが, リグニンの水溶性を向上させることができれば, リ
グニンとAlイオンとが相互作用しやすくなることが期待でき, より優秀なリグニン系
酸性土壌改良剤が調製できると期待できます。リグニンへ水溶性を付与するには, 前
項で示唆されたように糖鎖等の水溶性置換基を導入する方法, あるいは芳香核の酸化
によるカルボキシル基の導入などリグニン構造自体を改変する方法が考えられますが,
本研究では後者を試みました。その理由として, 低分子有機酸とAlとの錯体形成によ
りAlの毒性が除去できること, そしてAlとの錯体形成にカルボキシル基が重要な役割
を果たしていることが知られていることがあげられます。ここではカルボキシル基を
導入でき, かつ反応機構が比較的良く解明されているオゾン酸化反応を用い, リグニ
ンの水溶性を向上させつつ, 同時にAlと錯体を形成し得る部分構造をリグニンに導入
できるかを検討しました。
この研究を通して, オゾン酸化によりリグニンにカルボキシル基を導入し, そのカ
ルボキシル基を塩型に変換することにより, 水溶性とともに, Alとの錯体形成能や
その毒性除去能といった植物の根の成長に有利な性状がリグニンに付与されることを
確認できました。また, 改質リグニン中のどのような部分構造がAlとの錯体形成およ
びその毒性除去に有効であるかを推測すべく, 低分子化合物を用いた検討も行いまし
た。その結果, Alとの錯体形成能およびその毒性除去能は強く相関すること, そし
てキレート形成しうる位置にカルボキシル基およびフェノール性水酸基を有する構造
が両効果に有効であることを確認しました。
私は一貫して有機化学的な手法を用いてリグニン研究を行っておりますが, 最後の
テーマではそれに加えて無機化学の知識や生物学的な実験手法(水耕栽培実験)が必
要となりました。そんな中、研究に関して議論していただいた方々はもとより, 大学
院時代には有機化学およびリグニン化学に精通した恩師や同僚に恵まれ, 日大21世紀
COE博士研究員時代には同じプロジェクト内に植物栽培実験に精通した先生方や同僚
に恵まれ, 木高研では無機化学を専門としている先生に恵まれました。このような研
究を進めていくうえでサポートしてくださった方々に恵まれたという経験を通して,
若輩者ながら研究は一人ではできないと痛感するとともに, 本研究を進めるにあたっ
てご指導, ご支援をいただきました皆様に, この場を借りて心より御礼申し上げま
す。今後ともリグニンの基礎および応用研究に邁進し, 少しでも「リグニンの謎」
を解き明かすことができれば大変うれしく思います。今後ともご指導, ご鞭撻を賜
りますよう宜しくお願いいたします。
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◆第22回日本木材学会奨励賞
『木造建築物の地震等による倒壊過程シミュレーション手法の開発』
中川 貴文(建築研究所)
この度は、日本木材学会奨励賞に私の研究テーマをご選出いただき、誠にありがと
うございます。これまでご指導いただいた先生方、諸先輩方、また私をご推薦、ご選
考いただいた皆様に厚くお礼申し上げます。
私の研究テーマは地震発生時の木造住宅の挙動の把握を目的としておりますが、平
成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた大津波によ
る甚大なる木造住宅の被害には、ただ自らの無力さを感じるばかりでした。地震で亡
くなられた皆様に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災された皆様に心よりお見
舞い申し上げます。
以下、受賞対象となりました研究の概要をご説明させていただきます。
本研究は一言で申しますと、パソコン上で木造住宅の振動台実験のシミュレーショ
ンを行おうというものです。卒論生の頃から現在まで約10年ほど、取り組んでまいり
ましたが、「モデル化が正しければ」そこそこ正しい結果を出せるレベルに達したの
では?と考えております。「モデル化が正しければ」というのがミソで、、ご存知の
通り木造住宅に使われている部材や接合部は「ばらつき」の大きいものですので、振
動台実験の前に、間違った解析結果を出して、実験関係者の皆様に多大なるご迷惑を
おかけしたこともありました(申し訳ございませんでした)。「実験前に結果のあた
りをつける」「実験の後に物理現象の説明をする」といった使い方や、「ばらつきを
考慮した確率論的な結論の提示」といった使い方が本研究の成果の利用法として正し
いのではないかと思います。
本研究の成果は下記のURLからフリーウェアでご利用いただけます。ご興味のある
方は、使っていただいてご感想、ご要望などをお送りいただければ幸いに存じます。
http://www.kenken.go.jp/japanese/research/mtr/Nakagawa/wallstat.html
今後も、改良を続けて行きたいと思います。
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◆第20回日本木材学会地域学術振興賞
『薬用・食用菌類研究による九州地域の学術発展と研究成果の普及』
目黒 貞利(宮崎大学農学部)
このたび、地域学術振興賞を受賞させて頂き、誠に身に余る光栄に存じますととも
に、ご推薦・ご選考頂きました諸先生方に心よりお礼申し上げます。また、いままで
ずいぶん長い間ご心配ばかりおかけしてきました、恩師の岸本 潤先生、近藤民雄先
生、今村博之先生、坂井克己先生、鮫島一彦先生、河内進策先生にわずかでもご恩返
しができたのではないかと大変うれしく思っております。そして、この受賞の喜びを
宮崎大学農学部森林化学研究室の院生・学生諸君と分かち合いたいと思います。あり
がとうございました。
私は、昭和49年に鳥取大学林学科を卒業、九州大学の修士課程に進学後、一時民間
企業に勤めましたが、昭和54年に九州大学に助手として採用されました。近藤先生か
ら「酸素アルカリ蒸解」に関するテーマを頂きましたが、さすが夢のパルプ化法と呼
ばれるだけあって、何をやってもうまくいかず、学位をとるのが精一杯でした。
その後、縁あって宮崎大学に採用されましたので、なにか林産関係で地域に密着し
た仕事ができないかと考え、「シイタケ」と「スギ」に着目し、以来20数年間にわた
り「スギ材を用いたシイタケ栽培」に取り組んできました・・・といえば格好が良い
ですが、設備機器や予算に限りのある地方大学において、演習林に腐るほどあるスギ
材と1Kg 50円の“米ぬか”だけで実験ができ、論文が書けるということが最大の魅
力で今まで続けてきたというのが本音です。それと、もともと“紙パくずれ”で、き
のこ自体になんの興味もなく、論文を書くために無理矢理勉強したぐらいですから、
予備知識もなく、先入観に縛られるということもほとんどありませんでした。
スギ材ではシイタケは成長が抑制され栽培できないことはよく知られていますが、
その原因がスギ材の抽出成分フェルギノールにあることが善本先生のグループによっ
て明らかにされています。そこで、わたしは抽出成分が原因なら除けばよいと単純に
考え、徹底的に抽出したスギ脱脂木粉を用いて検討しました。しかし、その成長は広
葉樹木粉より明らかに劣っていたことから、シイタケの成長不良の原因は抽出成分以
外にもあると考えるようになりました。その後紆余曲折はありましたが、食品関係で
良く用いられている「水分活性」という考え方を用いて、きのこの種類と栽培適合樹
種との関係をある程度整理することができました。
培地内の水分を調整することで、スギ材においても広葉樹材に劣らないシイタケ菌
糸成長が得られるようになりましたが、子実体形成についてはまだ道半ばです。
最近、木材学会のきのこ研究会は、きのこ成分の生理活性ばかりが目に付き、本来
の樹木や木材との関わりについての研究が、基礎と応用の両面においてほとんどみら
れなくなってきたのが残念です。今まで誰もが考えもしなかった発想による、画期的
なきのこの栽培法が、いつの日か、この九州地域の若い研究者によって開発されるこ
とを夢見ております。
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◆第20回日本木材学会地域学術振興賞
『木材乾燥の研究による学術振興と木材関連産業活性化への多大なる貢献』
吉田 孝久(長野県林業総合センター)
このたび「木材乾燥の研究による学術振興と木材関連産業活性化への貢献」により
日本木材学会地域学術振興賞をいただくことができました。これまで、ご指導、ご支
援いただいた皆様に心から厚くお礼申し上げます。
長野県林業指導所(現、林業総合センター)に配属されてから30年、一貫して長野
県の木、信州カラマツの利用開発に携わってきました。配属された当時、ちょうど試
験場に蒸気式木材乾燥装置が導入されて間もない時期だったこと、また、自分が学生
時代に木材乾燥を少々かじってきたこともあり、カラマツの利用開発を目的とした
「乾燥技術」について研究する場を与えられました。
運良く、その時の指南役は木材乾燥士であった現所長の橋爪丈夫さんであり、頭で
は乾燥を習ってきたとはいえ、実戦技術では何も役に立たず、手取り足取りで技術を
叩き込んでいただいたことは今では非常に感謝しております。またその時の林産部長
であり、木材乾燥の必要性を誰よりも力説していた三村典彦さんの存在にも感謝して
います。
最初に手掛けたカラマツの乾燥は、板材の利用を視野にいれた「ヤニ」「割れ」
「ねじれ」の欠点克服から始まりました。この結果として、当時の木材乾燥としては
非常に温度の高い90〜100℃の高温高湿乾燥を提案し、この成果は、長野県内高校用
体育館の壁板に採用され、その後、県内の高校体育館の壁板は、ほとんどがカラマツ
高温高湿乾燥材で施工されました。このカラマツ壁板は質感の良さから人気商品とな
り、高校→小中学校→地域公民館等→一般住宅へと波及し、今でもロングセラーを続
けています。普及に際して、含水率や節径などの規格を業界と共に検討し、この頃か
ら産学官の協力もできてきたかに思います。
カラマツ板材の乾燥はその後、集成材のラミナの乾燥にも応用され、これにより製
造された集成材は、カラマツドームや長野五輪のスピードスケート会場エムウェーブ
など多くの大型建築物に使用されました。
板材の乾燥が一段落すると、さて次の段階はカラマツ柱材の乾燥でした。断面が大
きくなると乾燥には長時間を要することから、100℃以上の乾燥を考えるようになりま
した。その研究過程では灯油やテンプラ廃油中での乾燥を試みたりで、最終的には平
成9年に待望の蒸気式高温乾燥機が導入されたこともあり、高温低湿乾燥=高温セット
法を提案することができました。この乾燥方法を一緒に研究してくれたのが九大の藤
本登留先生であり、この開発は藤本先生とのコンビで木材学会技術賞をいただくこと
になりました。その後、理論固めをするため、応力の解析など信大の徳本守彦先生や
武田孝志先生には大変お世話になり、また、熱軟化の問題では森林総研の小林功さん
にも難題を解決していただき大変お世話になりました。
現在、この高温セット法はまだまだ改良の余地は沢山残されているものの、県内は
もとより全国に普及したことは大変うれしいことです。
高温セット法の開発で割れの少ない角材が得られたことから、その後、接着重ね梁
の開発に手を挙げ、近県の多くの仲間と一緒に研究ができ、接着重ね梁の製造から性
能評価までマニュアル書としてまとめることができました。現在、普及の一歩手前ま
で到達した段階です。無垢でもない集成材でもないこの接着重ね梁(接着積層材)の
今後の普及に期待しています。
最後に、今、私をここに立たせてくれた多くの諸先生、良き先輩、良き仲間、良き
友達に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。
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◆第4回 日本木材学会論文賞
『木材腐朽が釘接合部のせん断性能に及ぼす影響』,木材学会誌,56巻1号
戸田 正彦(北海道立総合研究機構 林産試験場)
森 満範 (北海道立総合研究機構 林産試験場)
大橋 義コ(北海道立総合研究機構 林産試験場)
平井 卓郎(北海道大学大学院農学研究院)
このたびは大変栄誉ある賞をいただき,著者を代表して心より御礼申し上げます。
本論文では,生物劣化が生じた木造躯体の残存耐力を評価することを目的として,
強制腐朽処理を行ったトドマツ材の縦圧縮試験および鋼板添え板釘打ち接合の一面せ
ん断試験を実施し,木材の腐朽が釘接合部の強度性能に及ぼす影響について検討しま
した。実験では,褐色腐朽菌であるオオウズラタケを用いて,最大180日間に渉って
強制腐朽処理を行いました。所定の処理期間を経たのち強度試験を実施した結果,縦
圧縮強度は腐朽初期に急激に減少する傾向を示しました。これに対して釘接合部の耐
力は,ややゆるやかな減少傾向を示していました。また健全な釘接合部試験体では釘
の頭がちぎれる破壊形態であったのに対し,腐朽させた場合は釘頭部の破断が生じず
に釘が引き抜けていき,最大耐力に達した後は荷重がゆるやかに低下しながら変形が
進行していくことを確認しました。
ところで,既存住宅の大地震時の倒壊を防止するためには,初期剛性や降伏耐力よ
りも終局耐力を把握することが重要であり,構造部材よりも接合部の性能低下を把握
することが必要となります。そこで,ここでは釘接合部の終局耐力に着目し,ヨーロ
ッパ型降伏理論に基づく耐力推定を試みました。その結果,鋼製ピン打込み深さと縦
圧縮強度との間に相関関係があることを利用することによって,腐朽した釘接合部の
ピン打ち込み深さから終局せん断耐力を評価することが可能であることが分かりまし
た。
最後になりましたが,審査員の皆様をはじめ,本論文に関わった方々に心から感謝
申し上げます。
また本論文は,江間忠木材・江間忠合板研究助成制度により,掲載費の一部を助成
していただきました。併せて御礼申し上げます。
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◆第4回 日本木材学会論文賞
『Quantitative estimation of carbon removal effects due to wood utiliza-
tion up to 2050 in Japan : effects from carbon storage and substitution
of fossil fuels by harvested wood products』JWS, Vol. 56, No. 4
恒次 祐子(森林総合研究所)
外崎真理雄(森林総合研究所)
この度は私たちの論文に対して論文賞をいただきまして誠にありがとうございます。
大変光栄であり,励みに感じるとともに今後に向けて身の引き締まる思いでおります。
関係各位には厚くお礼申し上げます。
木材は樹木が生長時に吸収した二酸化炭素を炭素の形で固定しています。したがっ
て社会利用されている木材のストック量が増えれば,実質的に大気中の二酸化炭素を
吸収したとみなすことができます。この「炭素貯蔵効果」は地球温暖化対策において
大きく期待されており,温暖化防止の次期国際的枠組みにおいて国のインベントリの
ひとつとして報告が認められる可能性があります。したがってわが国の木材利用によ
りどの程度の効果があるのかという定量的評価が急務となっています。
本研究ではわが国における木材製品のストック変化を推計するモデルを作成し,国
際的に提案されている3種の評価手法により2050年までの炭素貯蔵効果を推計すること
を試みました。また木材で他材料を代替することにより生じる「省エネルギー効果」,
木材をエネルギー源として利用することによる「化石燃料代替効果」も試算しました。
これにより明らかとなったのは,国際的報告ルールにおいてどの手法が採択されるか
によって吸収・排出の評価が大きく変わるということ,また木材利用が現状のまま続
くとすると,今後ほとんど二酸化炭素吸収効果を見込むことができないということで
した。一方積極的に木材利用を進め,建築物/家具における新規着工/製造中の木造/木
製率を2050年までに70%まで上昇させた場合は,炭素貯蔵効果によって約50万t-C,省
エネルギー効果で約200万t-C,化石燃料代替効果で約250万t-C,合計で約500万t-Cの
削減が得られることが分かりました。これは2007年度の日本の総排出量の1.5%程度に
あたることになり,3つの効果を合わせると大きな二酸化炭素吸収が得られることを示
すことができました。
本研究は木材学会において多くなされている「実験をし,その結果から考察を行う」
研究とは少し異なっています。そのような研究に対し,内容を評価していただき栄え
ある賞をいただいたことに深く感謝しております。また論文の査読をしてくださった
先生方にはこの場をお借りしてお礼を申し上げます。今後とも木材利用の推進に科学
的裏付けを与えるような研究を行っていければと考えております。学会員の先生方の
ご指導,ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
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書評「コンサイス 木材百科」改訂第2版 秋田県立大学木材高度加工研究所編
原田真樹(森林総合研究所)
本書は、木材に関連したトピックスを見開き2ページで解説した事典である。用語
については、2ページという制約のなかで可能な限り分かり易い表現が用いられてお
り、木材に関心を持つ者であれば高校生から読むことが出来る。もちろん、平易さを
優先して解説を浅くするということはしておらず、大学専門課程の学生、業界関係者、
研究者など幅広い層に亘って読まれることを想定して書かれている。
◇この続きは下記のリンクからご覧ください。
http://www.jwrs.org/woodience/mm020/harada.pdf
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学術情報をぜひご覧ください。
◎和文誌:木材学会誌 電子ジャーナル版
http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jwrs/-char/ja/
◎欧文誌: Journal of Wood Science 電子ジャーナル版
http://www.springerlink.com/content/1611-4663/
━━━━<広 告>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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なお、広告は日本木材学会の賛助会員からのみ受け付けます。
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